うつ病とは
 うつ病は、今ではよく知られた、ごくありふれた病気です。「心の風邪」と例えられているほどです。WHOの推計(1981)では、うつ病の有症率は3%とされています。この計算でいきますとわが国では370万人余がうつ病ということになります。さらに、今後も世界的にうつ病は増えていくと予想されています。
 うつ病の歴史も古いのです。ヒポクラテスの医典に、「うつ」は黒い胆汁が増えることにより起こるとされ、メランコリアMelancholia(黒胆汁症、Melanin=黒い、Choler=胆汁)と名づけられていました。
 以来、おびただしい数の研究が積み重ねられてきました。にもかかわらず、うつ病の原因は今なお不明です。取り立てて理由もないのにうつ病が発症することから、原因は内なる体質的なものに由来するのであろうとして、内因性うつ病と呼ばれたりもしています。しかし、うつ病が一つの疾患であるという証拠は何もありません。むしろ、いろいろな原因で引き起こされるといううつ病の異種性が唱えられています。
 うつ病の診断は、臨床症候をよりどころとしてなされます。基本症状は、生命感情の低下です。具体的には、ゆううつで何をしても楽しくない(抑うつ気分)、おっくうでやる気が出ない(抑制)、将来に希望がなく、生きる張りがない(絶望感、自殺念慮)などがうつ病の精神症状の中核をなします。身体的には、眠れない、食欲がない、性欲が落ちた、疲れる、とくに朝が悪い(日内変動)などとして現われます。参考までに、わが国で公式に採用されている国際分類のICD―10のうつ病エピソードの診断基準を示します。
 うつ病の原因論については、まだ一致した結論に達していません。それでも、いくつかの有益な提案がなされています。
うつ病に陥りやすい性格があると指摘されています。それは、仕事熱心、凝り性、徹底的、正直、几帳面、強い正義感や義務責任感、ごまかしやずぼらができないことです。これを提唱者の名に因んで下田の執着性格と呼んでいます。
通常、人は過労に陥ると休息をとりますが、このような性格の人は遅れを取り戻そうとますます働き続け休むことができず、やがてうつを発祥するというのです。
 ドイツのテレンバッハは、うつ病になりやすい性格として、几帳面で勤勉、責任感強く、対人関係では人のためという秩序の中ではじめて安定を得、仕事面では高い要求水準を持ち正確さ綿密さを求め、道徳的には過度に良心的であるという特徴をあげ、メランコリー親和型性格と呼びました。
 このような人は、柔軟性に欠け、破たんしやすく、昇進や転居、近しい人との離別などによって慣れ親しんだ秩序が乱されると自己矛盾に陥り、混乱をきたし、やがてうつ病の発症へとつながるとしたのです。
いずれも似たような性格傾向ですが、うつ病の発症は、単に内因性という体質によるものではなく、特有の性格の人がある状況に出会ったとき、それに対して特有の反応様式をとり続けることにより発症することを指摘したところが注目されました。
性格は、もって生まれた遺伝的資質と環境の相互作用によって出来上がります。確かに遺伝の濃厚なうつ病の家系があります。双子研究や、養子研究も、うつ病に遺伝が関与していることを示唆しています。
 一方、人生上のさまざまな出来事が、うつ病発症の契機となることもしばしばあります。そのときの状況やそれまでの環境が少なからず関わっています。現代は「うつ」の時代といわれています。うつ病は社会的影響も受けています。このように考えてきますと、うつ病にはさまざまな要因が絡み合っているといえます。一面的には解釈できません。そもそもうつ病は、その症状や経過のおおまかな共通性によって定義される症候群として概念化されたものです。一元的に解釈するには難があるといえます。
 うつ病の治療は、抗うつ薬による薬物療法が主です。薬物治療は確実に効果があります。薬物治療は、精神科専門医にまかせるとして、うつ病者自身が心しなければならない注意点がいくつかあります。
 病気であることを潔く認めることです。うつ病は決して気のせいでもなければ、怠けでもありません。それは、健康な人の想像を絶するほどつらい苦しい病気なのです。死んだほうがましと思うほどにつらいのです。他の人には、なかなか理解してもらえないのもなおつらいことです。しかし、くれぐれも自殺など短気を絶対に起こさないと心に決めていただきたいのです。何となれば、治療すれば必ず治るからです。治ってから、死ななくてよかったと笑顔で語る患者のなんと多いことか。
 療養上、何よりも大切なことは、休息をとることです。うつ病は、休めないために起こる病気です。頑張れば頑張るほど、努力すれば努力するほど事態が悪化し、自らの墓穴が深くなるのです。こじらせ治りが悪くなります。あせりは禁物です。
 仕事あるいは生活上では、重要な案件を決めるのを先延ばしにすることです。病気のときの判断は、あとあと後悔することが多いのです。
 もっといえば、明日に延ばせることは、すべて延ばし、どうしても今日やらなければならないことだけを処理していくとよいでしょう。自ずと仕事の優先順位が決まってきます。

 以上は病気と分かってからの注意点です。しかし、病気にならないよう日頃から注意することがもっと大切です。これを機に、このテストで心の健康度をチェックし、自愛する習慣をつけてくださるよう希望します。