ドキュメント
タネも仕掛けも
古今東西マジック見聞録U
ISBN4-88978-042-4
 すいせんのことば《マジックに魅せられて》那須正幹

 村上健治氏にお会いしたのは、かれこれ20年前、拙作『それいけズッコケ三人組』のドラマ化の件で、わが家を訪問されたのが最初だった。当時は関西テレビのプロデューサーをされていたと記憶している。ドラマは翌年1年間放映されて終了したのだが、交流のほうは仕事を離れてもなお、途切れることなく続いている。
 村上氏が関西の芸能に精通されていることは以前から承知していたが、マジックに造詣が深いことを知ったのは一昨年上梓された『マジック・不思議は楽し』を拝読したからだ。
 今回の著書もそうだが、ご自身がいかにマジックに魅せられているかが、よく分かるし、氏の視点が、舞台の上からでなく、客席側に立っていることがわかる。長くマスコミに関わっておられたにもかかわらず、あくまでもお客の立場からマジックを楽しみぬいておられるのがうれしい。今回も、世界のマジック界最新の話題から、有名マジシャンのインタビュー、あるいはマジックの歴史、特にシルクロードをへて日本に伝わってきた経緯など、興味深い内容が盛り込まれていて、ファンならずとも十分に楽しめるようになっている。
 しかしながら、村上氏の願いは、やはり一人でも多くのマジックファンの誕生だろう。

那須正幹(なす まさもと)
 1942年広島市生まれ。『それいけズッコケ三人組』シリーズの作家。このシリーズ、2004年中に50巻の完結が予定されている。
89年『ぼくらの地図旅行』で絵本にっぽん賞、93年『さぎ師たちの空』で路傍の石文学賞、95年『お江戸の百太郎・乙松宙に舞う』で日本児童文学者協会賞、2000年『ズッコケ三人組』シリーズで巌谷小波文学賞、『ズッコケ三人組のバック・トゥ・ザ・フューチャー』で野間児童文学賞。そのほか数多くの文学賞を受賞し、現代児童文学の旗手として活躍中。山口県防府市在住。
村上 健治著
四六判 230頁
定価(本体1600円+税)




主な目次
世界のマジシャン
1 マジックで亡命した男《パトリック&ミア》
2 フランスの1840年をよみがえらせた男《ジョン・ゴーン》
3 魔法使いからマジシャンへ《ロベール・ウーダン》
4 死ぬまで中国人を演じきった謎のマジシャン《チャン・リン・スー=程連蘇》
5 アメリカで初めて切手になったマジシャン《ハリー・フーディーニ》
6 鳩出しの先駆者《チャニング・ポロック》
7 「鳩だし」で世界に飛躍《島田晴夫》
◇海外に挑戦した日本人マジシャン
◆インタビュー《島田晴夫・2004》  
8 「鳩だし」の貴公子《ランス・バートン》
9 ロマンをイリュージョンで体現《デビッド・カッパーフィールド》
10 つかめアメリカンドリーム・16歳《ジェシカ・リード》
11 92歳・現役最高齢マジシャン《ジョン・カルバート》
12 中国の伝統芸能を取り入れて《ジュリアナ・チェン》
13 江戸の手妻に、日本の心を見る《藤山新太郎》
14 日本のマジシャンを世界へ《小野坂東》
◇世界3大マジシャンクラブ《SAM IBM FISM》
◇FISM日本人歴代受賞者
15 時代劇でトリック担当《真田豊実》
16 観客を楽しませてこそプロ《深井洋正》
17 マジック五輪日本人唯一の審査員《瀬島順一郎》
18 芸術としてのマジック追究《ゆみ》
19 FISM2000・2003連続受賞《峯村健二》
20 世界に羽ばたく兄弟マジシャン《山上佳之介・暁之進》
21 韓国からニュースター現れる《イ・ウンギョル》
22 ロンドンのスペシャルショー《ポール・ダニエルズ&デビー》

マジシャンの夢舞台
1 FISM2003ハーグ(オランダ)を観て
2 「なにわの国際マジックコンベンション」ファイナル
3 マジックバーをたずねて
◇あのプロマジシャンもやってくる《マジックカフェ フレンチドロップ》
◇マジックショーの楽しさ満載《バーノンズバー》
◇神戸三宮に本格的なマジックバー《マジックラウンジ ボンバー》
■東京のマジックバー・喫茶店 



まえがき

 思い返せば、ビッグなマジシャンと出会ってきた。数々の出会いは、私が関西テレビでディレクター・プロデューサーとして勤務していた時の節目節目に巡ってきた。
 バラエティ番組『漫画読本』についたころは、新米のアシスタントディレクターとして緊張の日々を送っていた。その1ヶ月目でいきなり引田天功(初代)の出演交渉から、彼のイリュージョン(大掛かりな装置を用いるマジック)の道具を、彼の指示のもと新たに美術部で製作するまでを担当した。その頃の天功は、日本テレビ系の「決死の大脱出」企画に頻繁に出演し、その度に話題を呼んで高い視聴率を稼いでいた。ビッグスターとはこういう風貌かと素顔をまじまじと見つめたことを覚えている。一度だけの出演だったが番組は大成功。天功はご機嫌だった。だが、美女が泳ぐ大きなプラスチックの水槽の製作費がかさんだために番組は大赤字を出してしまった。私はプロデューサーから大目玉を食らった。昭和43年(1968)、入社4年目のことだった。
 Mr.マリックは、忠兵衛という番組構成担当者が「すごいマジシャンがいる」と私がプロデューサーをしていた深夜のバラエティ番組『本気ナイト』に紹介してくれた。彼のマジックは、あの当時からシャープで、それに加えて演出が多様だった。魔法のように引き出しをいくつも持っていた。彼は毎回本番前日に東京から大阪のスタッフルームへ来て、深夜まで撮影方法を制作や技術スタッフらと打ち合わせた。物置同然の会議室で、歯に衣着せぬ討議をしたことも懐かしい。その中には番組専属の石黒英三カメラマン(制作会社エキスプレス所属=当時)もいた。マジックを、ハンディカメラで観客席から客の目線で追うという一人称カメラを担当した。流れるようなカメラワークは、今もマリックワールドに受け継がれている。また、神戸「北野クラブ」で収録の特番『マリック不思議ランド』を制作したが、マリックの初めてのワンマンショーとして放送されたことも印象に残っている。
 私にとって初めての海外マジックコンベンションに連れて行ってもらったのもMr.マリックだった。1988年、アメリカ・テネシー州のナッシュビルで開催のIBM。その大会にイギリスBBC放送のマジック番組『ポール・ダニエルズショー』の人気スター、ポール&デビーがゲスト出演していた。ユーモアあふれる舞台はもちろんだが、催しの期間中、彼らの国際的なスターらしい優雅な立ち居振る舞いにも心を奪われた。
 その5年後の1993年、思いがけなく「なにわの国際マジック大会」(不思議倶楽部主催・深井洋正代表)でポール&デビーと再び会うことになる。深井洋正&キミカはポールの番組の常連で、ポールは深井のマジック大会を応援するためのゲスト出演だった。私達は、深井のコーディネイトでドキュメント『ポール・ダニエルズショー』を制作することとなった。この後、深井と一緒にイギリスに渡りポール邸に泊めてもらって、連日BBCのマジック番組の制作を見学した。ポール邸は、映画『007』シリーズにボンド役で主演したロジャー・ムーアが以前所有していた屋敷で、エリザベス朝風のシンメトリーの庭園、テニスコートやプールもある大邸宅だった。
 深井とは、ハリウッドに住む若きマジシャン達の夢を追った『ハリウッドのてんのじ村』、『東西六大学マジック選手権』など数多くのマジック番組を作った。世界を舞台に活躍する彼に、欧米の有名マジシャンやプロデューサーを紹介してもらった。

 さて、古来、優れた芸能は、よい観客によって育てられてきた。よい観客がいなければ、芸能は育たない。私の興味、目線は、観客席から舞台に向かっていて、決して舞台上からの演者のものではない。マジックファン全員が舞台に上がってしまって、幕が開いて客席にお客が一人もいなかったとしたらどうだろう。舞台を楽しむ観客の裾野の広い芸能ほど豊かに発展していくことは、例を挙げるまでもない。
 今回も、拙著『マジック・不思議は楽し』に続いて、本書がマジックショーの、いや、すべてのエンターテインメントのよい観客であるための道案内として、少しでもお役に立つところがあればと願っている。                                
=敬称略

《世界的なスター島田晴夫語録に感銘・マジック史上貴重な90枚の写真も魅力》
〜『ドキュメント タネも仕掛けも』を読んで〜     石田隆信〈マジック研究家〉
 
 書かれています内容は、最近の世界のマジックの状況だけでなく、世界のマジックの歴史、特に日本や中国の歴史に深く踏み込まれて、バラエティに富んでいるのがすばらしいと思いました。
さらに、世界における日本人の活躍ぶりが分かりやすく紹介されていますので、一般の人にも日本は捨てたものではないということで興味がそそがれる内容になっています。

 小気味よく短くまとまった内容の部分と、それを細かくする取材ファイル、そしてそれらとは少しおもむきをかえて充実した内容の部分があり、変化に富んでいて引き込まれて、一気に読み終えてしまいました。写真が充実していますので、より興味がひきつけられます。また、次の話の内容が前の内容とつながりがあり、興味深く読み進めました。
 それぞれの記事が印象深いのですが、その中でも最も印象に残りましたのは、島田晴夫氏との対談です。特に「ハトは道具じゃない。舞台のパートナーです」「欧米人はコピーを嫌う、というよりも軽蔑する」「私は日本人です。日本人の原点に戻ったとき、はじめて世界に訴えるものが生まれる」。それぞれ肝に銘じるべき言葉だと思いました。

 もうひとつ、ロマンを感じさせられましたのが、妖精事件におけるフーディニの言葉とサンタクロースの存在の話です。マジックを演じる場合、なかでも子ども相手の場合には、時にそういったロマンや夢を与えるべきものであるという考え方を忘れないよう、私も演じたいと思いました。


著者紹介
村上 健治(むらかみ・けんじ)
メディアプロデューサー。

大阪府立東住吉高校芸能文化科特別非常勤講師(平成14年度まで)
大阪芸術大学非常勤講師。
キャットミュージックカレッジ講師。
日本笑い学会理事。
[マジックや落語など芸能に関する評論・エッセーを新聞・専門誌に多数発表中]
著書『マジック・不思議は楽し』(燃焼社)

元・関西テレビ ディレクター・プロデューサー。
★おもな制作番組
『それいけ!ズッコケ三人組』『爆笑寄席』『本気ナイト』
『米朝噺し』『たっぷり!志ん朝・仁鶴』『花王名人劇場』
『やすし・きよし20周年記念番組』ほか。
☆マジック番組
『ポール・ダニエルズ・イン・ジャパン』『マリック不思議ランド』
『ハリウッドのてんのじ村』『東西6大学マジック選手権』
企画・『地球に乾杯!マジックでつかめアメリカの夢』(NHK総合 2002/1/3)ほか。
[神戸市在住]