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心理

ISBN4-88978-107-6

飯島 和彦著

四六判 350頁
定価 (本体1,800円+税)

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いわゆる「神経症」と悪戦苦闘して六〇年

 古今東西、いわゆる「神経症」と目される病気で苦しみ、悩まされてきた人々は、実に夥しい数となり、現在でも、この種の病状に苦しみ、悩み続けている人々は非常に多いと思われます。私もその一人であり、あなたもその一人かも知れません。しかも、神経症と言われる病気は、現在でも、その医学的な正体があまり解明されず、従って、その治療法も必ずしも明瞭ではないようです。それ故に、神経症はとても厄介な、医師にも心理臨床家にも簡単には治療し難い病気となります。神経症は、重篤な病気とか、難病と言われるものではないのに、多くの人々がこの病気に苦しみ続けているのです。どうやら、神経症は、人によっては、多かれ少なかれ一生付き合って行かねばならぬ宿痾のようです。それは、まるで人生の悪しき伴侶に似ています。いや、伴侶ならば、場合によっては、上手く別れてしまって、本人は新しく人生をやり直し、苦しみと絶縁して、自分だけの幸せを掴むことが出来るかも知れません。ところが、この神経症と言う病気は、その医学的な知見が今でも殆ど曖昧模糊として、少しも明瞭とならないので、個々の神経症的な症状に対処する確実な治療法も判然としないようなのです。従って、その患者は、長い年月、自分の辛い症状に深刻に悩み続けて、結果、人生で茨の道を歩き続けることになるかも知れません。しかも、その辛い苦しみは、家族を含めて、親しい友人や知人からも、なかなか理解されず、詰まる所、本人が独り苦しみ、悩むだけで、世間の誰一人からも、同情もされない、真に辛い病気なのです。
 この神経症は、その病名も実態も、元来、医学的な知見が明瞭でないばかりか、現在では、その言葉自体が言わば死語となりつつあり、特に若い世代の専門医の間では、「神経症」の代わりに「神経症性障害」とか「神経症的障害」とか言い、あるいは広義に「不安障害」と表現するようです。しかし、旧世代の専門医や世間一般の間では、現在も「神経症」と言う言葉が使用されていて、実際に、直前の20世紀までは医学用語として、ほぼ唯一の主流となる用語でした。従って、本書では、この「神経症」と言う用語を従前通りに使用することにします。その理由は、一つは、私自身の人生がこの言葉に多く振り回されてきたことにあり、二つ目は、現在でも、神経症とかノイローゼと言う表現が一般的に使用されていることにあり、その三つ目は、私より2歳年下の経済学者である元東京工業大学教授の渡辺利夫氏が『神経症の時代』(TBSブリタニカ)と言う著作を1996年に出版されて、開高健賞を受賞されたほど、この神経症と言う言葉が世間に周知なものだからです。このように、神経症と言う言葉は、これまで余りに安易に使用されてきたので、その患者や周囲の人々、そして世間一般にも、著しい悪影響を与え続けてきたと言う現実があるように思われます。それを払拭するためにも、私は、本書で、この言葉の問題を中心的な位置において、私自身が新たに主張する論旨を展開したいと思います。それ故、「神経症」や「ノイローゼ」という病名が今では殆ど死語となりつつある医学的な事情についても、何処か本文の適宜の場所(特に第5章)で、記述するつもりです。
 念を押して言えば、今でも、この神経症の症状または神経症的症状に関しては、その原因や治療法が、専門医によっても殆ど判然としないようなのです。それ故、人により、いくら治療を受けても、病状は、一時的に減弱または寛解することはあっても、完全に治癒することはありません。そのために、神経症的症状の病人は、自分自身で、あの手この手と考えては、思いつくままに、ありとあらゆる治療法を試み、自ら治そうと努力を重ねます。それでも、その病状が、癒えるとか、治り切ることはないのです。むしろ、如何に対処しても、殆ど顕著な治療効果が上がらない場合が多いのです。神経症を何とかして治そうと悪戦苦闘する本人の努力とその結果の空しさは、神経症と縁のない人々には、まるで理解されないように思われます。それ故に、神経症に苦しむ人々は、尚更、何時でも、孤独で、辛く、人生そのものが苦しいものとなります。
 私自身の場合を例にすると、最初は、自分の感じる病状の原因が何の病気なのか全く判らないので、その症状や苦痛に応じて、その都度、内科、眼科、耳鼻科など、自宅の近所の個人開業医を回って診療を受けたのです。そこでは、なかなか埒が明かず、病状は一進一退、どうしても治癒しないので、やがて地元の基幹病院や大学病院などに出向いて診察を受けます。そこでも、最初は一番辛い病状に応じて、想定できる診療科目の専門医の診察を受けることになります。その際、必要に応じて、各種の検査や問診を受け、場合により、レントゲン、CT、MRIなどの最新医療機器で種々の精密検査を受けます。その結果、「特に問題はないですね。言わば、自律神経失調症でしょう」などと曖昧な診断を下され、精神安定剤や睡眠導入剤など、その都度、便宜的な薬物の投与を受ける結果となります。何処の、何れの専門医の診断を受けても、何らの器質的な原因は何も無いと診断されると、多少の神経症的な症状はあっても、「自分は特に何の病気でもないのだ」と安心して、普段の日常生活に戻ります。すると、またもや直ぐに、同じ病状に執拗に苦しみ、悩むことになるのです。それでも、私は、これまでの半生で、若い頃から現在に至るまで、唯の一度も「あなたは神経症です」という診断を、何処の、如何なる医師からも受けたことはありません。それにも拘わらず、私の苦痛とする病状の多くが、結局は、いわゆる神経症に因るものではないかと疑ってしまう結果となります。何時も、この納得出来ぬ運命的なジレンマに陥って、私は、今でも、私自身の神経症的な症状に対処する方法が全く判らぬままに、遂に60年に亘る長い年月を経過してしまったと言うのが実情です。
 私が常識外の長い年月を苦しみ、悩まされて来た種々の神経症的症状が、一体、本来の神経症と目される病状なのか、それとも、何か別の原因による器質的病気、或いは神経症的症状なのか、いや、そもそも元来が病気とは言えぬような症状なのか、全く不明なままです。しかし、私は、現在でも、神経症の症状あるいは神経症的症状に苦しみ、悩まされています。そのような事情から、私は、嫌でも、神経症と言う病気に関して、長年の間、多くの疑問と関心を抱き続け、自分自身で、何とかして、その正体を究明したいと考えるに至りました。勿論、凡庸な素人の分を弁えぬことと承知しています。その結果、本人は無論、如何なる最先端医学や心理臨床家に頼っても、全くお手上げで、治しようのない病気、それが多くの神経症であると結論したのです。現代医療の最先端には、進歩した薬物療法や物理療法がある外に、多種多様なサイコセラピー(精神療法・心理療法)があります。しかし、それらの多種多様な治療法を医師や心理臨床家から実際に受けるとしても、余りにも時間や費用がかかり過ぎるし、逆に、その治療効果はあまり期待出来ません。現在でも、少しも良くならぬ神経症が多いように思われます。現代の複雑極まる社会にあっては、神経症はますます増加し、かつ、多様化するばかりと思われます。そのような病状に苦しみ、悩む患者は、社会の生存競争から落伍して惨めな境遇に陥ったり、世間からは、まるで人格的劣弱者であるかのように蔑視される危惧さえあります。この神経症とは、一体どのような病気であり、それに対して、どのように対処すれば良いのでしょうか。 私は、自分のこれまでの半生に及ぶ神経症体験を回顧しながら反省してみて、神経症に関する考察を深めた結果、自分なりに一応の結論が出せたように考えています。その結果、今なお神経症の症状または神経症的症状に苦しむ私自身も、今後、自らの症状を少しは軽くする縁となるかも知れないし、若しかすると、私の考え方が、現在、神経症に苦しむあなたにも、多少は、お役に立つかも知れないと考えました。本書は、全体が少し冗長なものかも知れませんが、興味のある部分だけでも、あなたに拾い読みして頂ければ誠に幸いです。私は、残念ながら、今、人生を失敗してしまったと考えている人間の1人ですが、その失敗の原因を数え上げると、その最大の原因は、やはり自分自身の神経症的症状に対する長年の誤った対処の仕方に有ったように思います。私は、あなたには、私のような過ちで、大事な人生を失敗して欲しくないと考えています。
主な目次

第1章 私の神経症の来歴
1.最初の神経症的症状
2.さまざまな眼疾
3.交通事故
4.大学時代
5.最初のサラリーマン生活
6.約三〇年間の出版社時代
7.定年前の突然の退職
8.リタイアして現在に至るまで
 
第2章 私の神経症的症状
1.「神経症」の疑い
2.私の神経症的症状
@頭痛・頭重
A不眠症状
B眼精疲労状の眼疾
C平衡感覚の異常 (動揺感)
D離人症状
E死の恐怖、死の不安
F書痙
3.「神経症」と「神経症的症状」

第3章 神経症と言う言葉
1.神経症の意味
2.精神病や精神科への大きな偏見
3.神経症と言われる症状 (森田療法を知る)

第4章 森田療法
1.森田療法の創始理論
@第一期 臥褥療法
A第二期 軽い作業療法
B第三期 重い作業療法
C第四期 複雑な実際生活
2.森田療法の基本理論 (現在)
3.生活の発見会

第5章 いわゆる「神経症」とその治療法
1.「神経症」の全体的イメージ
2.多種多様な神経症
3.多種多様な治療方法
◎現在の代表的なサイコセラピーの例
@『精神分析療法』
A『ユングの分析心理学による治療法』
B『自律訓練法』
C『来談者中心療法』 (カウンセリング療法)
D『認知療法』
E『行動療法』
F『認知行動療法』 
G『ロゴセラピー』 (実存分析療法)
4.森田療法の特異性 (特に「書痙」の治療を例として)
 
第6章 いわゆる「神経症」の正体
1.神経症の正体
2.心と身体
3.実存的な自我の煩悶症状
4.人間の生命活動 (心身問題)
 
第7章 神経症に対処する方針
1.本心と制約される生命活動
2.人間の永遠の謎解き
@「あなたは、何処から来たのですか」
A「あなたは、一体、何者なのですか」
B「あなたは、一体、何処へ行くのですか」
3.神経症に苦しむあなたへの具体的な助言
4.人間の運命 (結び)