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ISBN978-4-88978-146-5

荊木 美行著

A5判 320頁
定価(本体4500円+税)

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昨年刊行した「『播磨国風土記』の史的研究」の続編。新稿をふくむ風土記関係論文8篇を収録。

続・『播磨国風土記』の史的研究

 本書は、筆者が昨年刊行した『『播磨国風土記』の史的研究』(燃焼社、令和二年八月)の続編である。ありがたいことに前著は好評を以て学界に迎えられ、年内に初版の在庫は払底した(書肆は、増刷を予定しているとの由)。
 前著の「あとがき」にも書いたことだが、諸般の事情から前著には収録できなかった風土記関係の拙稿が数篇あった。また、前著刊行後も『播磨国風土記』に関してはちょっとした考証を絶え間なく執筆していたので、それらがかなりの数溜まった。いつかは、こうした諸篇を類聚して前著の続編を刊行したいという気持ちはあったが、それはまだずいぶん先の話だと思っていた。ところが、その機会は思いのほか早くも訪れた。いずれ続刊をという筆者の構想を憶えていてくださっていた書肆の側から、今年のはじめに続編出版の提案があったのである。悦んでお引き受けしたのはいうまでもない。
 新著刊行の慶びもさることながら、筐底に眠っている旧稿が晴れて日の目をみるのがなによりうれしい。これまであまり論じられなかったことを取り上げたものも少なくないので、読者諸賢の忌憚のないご批正を乞う次第である。

     ○

 以下、各章について、その初出書誌とかんたんな内容紹介とを掲げておく。
第一章「『播磨国風土記』と伊和大神」は、藝林会発行の『藝林』第六九巻第二号(令和二年十月発行)に発表したものである。平泉隆房先生からのお誘いを受けて寄稿した。伊和大神は『播磨国風土記』にのみみえる在地神だが、これがじつは三輪の大神のことだとする田中卓氏の説がある。一分の隙もない周到な論文だが、いくつかの点で納得したがたいところがあったので、それについての私見をのべたのが小論である。前著第九章に収めた「『播磨国風土記』の「神酒村」―標目地名と本名の関係―」は、小論と一体をなす論文なので参照をお願いしたい。
第二章「「匣」と「褶」―古代喪葬の一断章―」は、木本好信先生編『古代史論聚』(岩田書院発行、令和二年六月)に掲載したものをこのたび増補したものである。『播磨国風土記』の訓読を考える過程で、賀古郡にみえる「匣」について従来の説とは異なる解釈(「クシゲ」ではなく「ヨロヒ」と訓む解釈)が可能ではないかということに端を発し、古代の葬送についても考察を及ぼしている。
第三章「『播磨国風土記』の巨石伝承―石宝殿をめぐって― 」は、豊中歴史同好会の会報『つどい』第三八三号(平成三十一年十二月)・第三八四号(平成三十二年一月)に上下に分けて掲載した論文である。前半は、前著の「『播磨国風土記』雑考」でものべた印南郡の存否や郡下の里に関する地理的考察を転用したものである。ただ、本章で論じた大石伝承はその印南郡下の記述なので、この部分があったほうがわかりやすいかと思い、重複を厭わず掲載した。なお、石宝殿のことは、木本好信先生の主宰される『史聚』五三号(史聚会発行、令和二年四月発行)に寄稿した「石宝殿小考―『播磨国風土記』の大石伝承との関聯―」でも拙論の要点をのべている。
第四章「『播磨国風土記』地名の訓読―「安相里」「立野」「荻原里」「細螺川」の訓みを中心に―」は、未発表の新稿だが、これも第二章同様、従来の訓みとはちがう案を提唱したものである。一旦定着した訓みはなかなか再検討されないことを示す事例として、本章ではいくつかの地名を取り上げてみた。
第五章「「越部屯倉」小考―『播磨国風土記』揖保郡越部里条をめぐって―」は、畏友上遠野浩一氏の主宰する『古代史の海』(「古代史の海」の会発行、令和三年三月)に採っていただいたもの。『弘仁私記』にみえる「皇子代之屯倉」という記載は、播磨の越部屯倉の性格を考えるうえできわめて重要な史料だが、なぜかこれまで取り上げられることがなかった。しかし、これは越部屯倉の本質を考える有効な史料だと思うので、それについての私見をまとめたのが本章である。文字通りの「小考」だが、風土記研究だけでなく、子代や屯倉の研究に取り組んでおられるかたがたにも検討していただきたい一篇である。
第六章「神ヘ叢語『播磨風土記』について―全文の影印と解説―」は、未発表のまま眠っていた旧稿。神ヘ叢語という明治初期の雑誌に掲載された『播磨国風土記』の活版印刷本の全文を飜刻するとともに、その本文がなにに拠ったものかを究明している。神ヘ叢語本『播磨国風土記』は、現在では顧みるひとも稀であるが、風土記初の活字印刷として研究史上の価値は少なくないと思う。『播磨国風土記』の写本については、垣内章先生に種々ご教示を得た。
第七章「大碓命伝承の虚と実―美濃への分封伝承を中心に―」は、最近書き上げた新稿。直接『播磨国風土記』とは関係のない一篇だが、景行天皇朝の伝承を取り扱ったもので、『播磨国風土記』にみえる印南別嬢伝承とはかかわりが深い。風土記の伝承の史実性を考える一助となる論文なので、あえて本書に収録した。論文の主旨は、?記紀にみえる景行天皇皇子の大碓命は美濃とかかわりの深い人物であった、?岐阜県大垣市に所在する昼飯大塚古墳は、大碓命的王族の墓である可能性が大きい、という二点に尽きる。
最後の〔附論〕「神宮鎮座の実年代をめぐって」は、最近、神宮の弘報誌『瑞垣』二四八号に出た論文を改稿したものだが(発表時のタイトルは、「『日本書紀』と伊勢の神宮―御鎮座の実年代をめぐって―」 )、やはり『播磨国風土記』とは直接関係がない。しかし、『播磨国風土記』の伝承の史実性を考えるとき、暦年代に関する議論は避けて通ることができない。そこで、この点に関する私見を開陳した小論を附論として掲げた。微意をお汲み取りいただければ、幸いである。

 前著のあとがきにも書いたが、風土記を読んでいると、自身の智識不足からか、いろいろな疑問が次から次へと湧いてくる。それを解決しようとしてあれこれ調べては、それを備忘録に書き留めるのだが、それが僅かの間にもかなりの数溜まってくる。今回、前著の続編という形でそれらを発表することができたのは望外の幸せだが、それもひとえに多くのかたがたの援助のたまものである。いちいち芳名をあげることは控えるが、研究を進めるうえで常に励ましとご教示を忝くしている塚口義信・中司照世・廣岡義隆三先生のお名前を逸することはできない。また、出版をお勧めくださった(株)燃焼社の代表取締役社長藤波優氏にも心よりお礼申し上げる次第である。
 なお、本書の刊行にあたっては、勤務先の皇學館大学より令和三年度皇學館大学出版助成金の交付を受けることができた。ご高配をたまわった大学当局にも衷心お礼申し上げる。

主な目次

はしがき
第一章 『播磨国風土記』と伊和大神
第二章 「匣」と「褶」
      ―古代喪葬の一断章―
第三章 『播磨国風土記』の大石伝承
      ―石宝殿をめぐって―
第四章 『播磨国風土記』地名の訓読をめぐって
      ―「安相里」「立野」「荻原里」「細螺川」の訓み―
第五章 「越部屯倉」小考
      ―『播磨国風土記』揖保郡越部里条をめぐって―
第六章 神ヘ叢語『播磨風土記』について
      ―全文の影印と解説―
第七章 大碓命伝承の虚と実
      ―美濃への分封伝承を中心に―
〔附論〕神宮鎮座の実年代をめぐって
あとがき
『播磨国風土記』地名一覧並びに索引